Journal of Términus
ふたつの答えに辿り着いたレモンケーキ
試行錯誤の果てに生まれたテルミニュスの
レモンケーキ
焼き菓子の中でも、レモンケーキほど多くの人に愛され、そして作る手によって表情ががらりと変わるお菓子はありません。
昔懐かしい優しい味わいのものから、ハッとするほど甘酸っぱいもの、シャリッとしたアイシングを纏ったものまで、街の洋菓子店やパティスリーにはそれぞれの個性が詰まったレモンケーキが並んでいます。
だからこそ、私たちが目指すお店でお届けすべきレモンケーキとは一体どのような姿であるべきなのか、私たちは最初から大きな問いと向き合うことになりました。
酸味をどれくらい利かせるのか、アイシングで甘みの膜を張るべきか否か、生地の水分量はしっとりと重厚にするか、それとも軽やかに解ける質感にするか。一つひとつの要素をゼロから考え直す、途方もない試作の日々が始まりました。
1. 最も多くの試作を重ねた理由
テルミニュスのお菓子づくりの中で、最も試作回数が多くなったのがこのレモンケーキでした。素材を分解し、分析し、再構築する作業をどこまでも繰り返しました。
私たちが大切にしているのは、感覚だけに頼るのではなく、素材の要素を分解し、緻密に分析した上で新しい美味しさへと再構築していくオプトロノミーのアプローチです。
レモンの果汁が持つシャープな酸味、果皮に潜む豊かな精油の香り、砂糖の甘みがもたらす保水性、バターの乳脂肪分が重なったときのまろやかさ。レモンケーキを構成するあらゆる要素を細かく解剖し、それぞれの配合比率を数グラム単位で調整してはオーブンで焼き上げる作業を繰り返しました。
焼き上がった生地の切り口を観察し、口に入れた瞬間の広がりに耳を澄まし、喉を通ったあとに残る香りの余韻を何度も確かめる。厨房のテーブルには、微妙に配合を変えた何十種類もの試作が並び、納得がいかずに頭を抱える夜が幾度となく訪れました。
そうして極限まで味のロジックを突き詰めていく中で、私たちはひとつの確信に至りました。レモンという果実が持つ圧倒的な魅力を表現するためには、ひとつの正解に絞り込む必要はないのではないかという答えです。
2. 対比をなすふたつの完成形
複雑で贅沢な香りの余韻を楽しむ小さな一品と、爽やかな酸味と生地のうまみをストレートに味わう豊かな一品。対照的なふたつのレモンケーキが誕生しました。
思考と検証を限界まで重ねた結果、テルミニュスでは性格の異なる二種類のレモンケーキを作り上げることに決定いたしました。
ひとつ目のレモンケーキは、小ぶりなサイズの中に複雑な香りと贅沢な満足感を閉じ込めた仕立てです。レモンの爽やかさに選び抜いたスパイスのニュアンスを重ね合わせ、表面にはシャリっと心地よい食感のアイシングを施しました。一口かじると、甘みと酸味、そしてスパイスの複雑な香りが重なり合い、小さくても深い余韻が残る立体的な味わいに仕上げています。
ふたつ目のレモンケーキは、しっかりとした大きさと、ふっくらしっとりとした贅沢な生地の質感を愉しんでいただく仕立てです。あえてアイシングはかけず、生地そのものが抱え込んだ新鮮なレモンのキュッとした酸味がまっすぐに際立つように組み上げました。口に含んだ瞬間に口溶けのよい生地とともに、酸味がストレートに広がる一品です。
どちらも単なるバリエーション違いではなく、計算し尽くした素材の組み合わせによって味の奥行きや立体的構造、香りの広がり方を全く異なるアプローチで設計しています。
3. オールスペシャリテを体現する一品
私たちが目指しているのは、店頭に並ぶすべてのお菓子が看板商品としての存在感と理由を持つ、オールスペシャリテという姿です。
今回誕生した二種類のレモンケーキは、まさにその思想を体現してくれる自信作となりました。
小さな一粒に込めた香りの重なりを選ぶのか、大きなひとくちに込めた生地の美味しさやキュッとするような酸味を選ぶのか。その日の気分や好みに合わせて、レモンケーキの新しい美味しさを発見していただけるはずです。
今年の11月のオープンに向けて、私たちはこの二つのレモンケーキの精度をさらに研ぎ澄ませながら仕込みの準備を進めています。
川越・久保町の店舗で、計算し尽くされたふたつの商品の物語をみなさまにお届けできる日を、心から楽しみにしております。
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