Journal of Términus
パティシエの仕事
パティシエという仕事を続けてきて思うこと
街がまだ静まり返っている早朝、ひんやりとした厨房の明かりをつける瞬間から私達の一日が始まります。
お店のショーケースに色とりどりお菓子が並ぶ様子はとても華やかですが、その裏側にある仕込みの現場は、想像以上に体力と時間を使う地道な作業の連続です。
朝早くから夜遅くまで立ちっぱなしで生地を仕込み、生クリームの泡立てや果物の準備をし、大きな器具を洗う毎日。身体的にも大変なことが多く、時にはふと立ち止まりたくなるような瞬間もあります。
それでも私達がこの仕事を面白く感じ、今日まで十余年にも渡りパティシエを続けているのはなぜなのか。日々の仕事の中で感じている素直な思いを、包み隠さずお話しできればと思います。
1. 一晩中ケーキを作り続けたあの夜のこと
クリスマスシーズンには、一睡もせずに朝までケーキを作り続けることもありました。手と体を動かし続ける大変な時間です。
パティシエの仕事の大変さを思い出すとき、今でもまっ先に頭に浮かぶのが、一年で最も街が賑わうクリスマスの時期のことです。
この特別な日を楽しみに待っていてくださる本当にたくさんのお客さまへケーキをお届けするため、夜が更けても厨房の電気を消すことなく、一晩中眠らずにケーキを作り続けたことがありました。
手分けをしながら、均一に生クリームを塗り、瑞々しい苺を並べ、チョコレートの飾りをのせて丁寧に仕上げていく作業を繰り返します。
時計の針が深夜の二時、三時と進むにつれて、足腰の重さや指先の疲労が押し寄せてきます。(作業中は不思議と眠気は感じません。身体を動かしているからだと思います。)それでも、ひとつでも雑な仕上がりになってしまえば、それを受け取った方の大切な一日に影を落としてしまうことになります。だからこそ、どれほど身体が重くても手元の作業から集中を切らすことはできません。
静まり返った厨房の小窓から外を覗くと、いつの間にか空がゆっくりと白み始め、朝の光が差し込んできました。無事に予定していたすべてのケーキを作り終えたときの開放感と安堵感は、何年経った今でも胸に深く残っている特別な思い出です。
2. 生菓子と焼き菓子それぞれの試行錯誤
生菓子のフレッシュな口どけと、焼き菓子の香ばしさ。新しい美味しさを探す試行錯誤には終わりがありません。
体力を使う仕事であること以上に頭を悩ませるのが、日々の新しく作り出すお菓子のアイデアと向き合う時間です。
例えば、生菓子を作る際には生クリームの脂肪分や砂糖の量を何パターンも変えて検証します。ムースの滑らかな口どけや、タルト生地の心地よいサクサク感とのバランスをミリ単位で整えていく作業は、とても繊細で気が抜けません。
一方で、焼き菓子を作る時には、バターの香りをどこまで引き出すか、オーブンの中でどこまで深みのある焼き色をつけるかという火入れの探求を行います。冷めた時に一番美味しい食感になるように、粉の合わせ方や生地の寝かせ時間を何度も調整します。
何度もレシピを書き直し、試作を作っては味わいを確かめる作業は、時に出口が見えない迷路に入り込んだような気持ちになることもあります。一生懸命に作った試作品が思い通りの味にならず、がっかりしながら厨房を片付ける夜も一度や二度ではありません。
けれど、頭の中で思い描いていた通りのバランスや食感がきれいに表現できた瞬間は、それまでに重ねてきたあらゆる苦労や迷いが一瞬で吹き飛んでしまうほど、胸が躍るような嬉しさに包まれます。
3. やっぱりパティシエになってよかったと思える瞬間
一日中立ちっぱなしで身体が重く感じる日も、夜遅くまでの試作で疲れが残る朝もありますが、私はこの仕事を嫌いになったことは一度もありません。
そう心から思える一番の理由は、自分が手塩にかけて作ったケーキや焼き菓子を手にした方の、嬉しそうな笑顔や表情の変化を見られることです。
後日お店に来てくださったお客さまから、すごく美味しかったよとお声がけをいただいたり、ご家族の誕生日や大切な記念日のテーブルに私達のお菓子を選んでいただけたりした時、胸の奥がじんわりと温かくなります。
自分の作ったお菓子が誰かの特別な時間の一部になり、美味しいねと笑い合うきっかけになれていると実感できた瞬間、パティシエという道を選んで本当によかったと心から実感するのです。
今年の11月のオープンに向けて、私達は今も毎日生菓子と焼き菓子の両方において妥協のない仕込みと試作を重ねています。
早朝から夜までお菓子と向き合うこの地道で愛おしい時間は、すべてお店に来てくださるみなさまの笑顔へと繋がっていると信じています。
川越・久保町の店舗でみなさまとお会いし、丹精込めて作ったお菓子をお届けできる日を、私達も心から楽しみにしております。
コメント