Journal of Términus
商品開発の苦しさと歓び
作りたいものと求められるもの
新しいお菓子の構想を練るとき、私たちの厨房には静かな緊張感と試行錯誤の時間が流れます。
お店のショーケースに美しく並べられるお菓子たちはどれも完成された素晴らしい姿を見せてくれますが、そこに辿り着くまでには幾度となく壁にぶつかり頭を抱える膨大なプロセスが存在します。
ものづくりにおける商品開発という作業は、どこか出口の見えない暗闇の中を歩くような苦しさと、突然視界が開けるような圧倒的な歓びが背中合わせになっている独特な世界です。
今年の冬のオープンに向けて日々新しい味覚の構築に向き合っている私たちが、普段どのようにして商品開発の苦しさと楽しさを味わっているのか、その内側を少しお話ししてみたいと思います。
1. 何度ノートを広げてもアイデアが出ない夜
どれほど考えても良いアイデアが浮かばず、どこかで見たような試作になってしまう。開発の初期には、自分の表現力と向き合う厳しい時間が訪れます。
新しい商品を開発する際、最初に立ちはだかるのはアイデアの壁です。
机の上にノートを広げ、何時間もペンを走らせても納得のいくモチーフやコンセプトが何も思い浮かばないことがあります。ようやく絞り出したアイデアであっても、いざ形にしてみるとどこかで食べたことがあるような味になってしまったり、既存のお菓子の焼き直しに過ぎなかったりと、自分の表現の幅の狭さにがっかりすることも少なくありません。
さらに私達を悩ませるのが、自分が作りたい理想の味と、実際にお客さまが求めている美味しさとの間に存在するギャップです。
職人としてマニアックなまでに突き詰めた複雑なアロマや引き算の構造が、必ずしも食べてくださる方の純粋な歓びと一致するとは限りません。自分たちの表現したい美学を守りながら、同時に誰が食べても素直に美味しいと感じていただける親しみやすさをいかに両立させるか。そのちょうどいい答えを見つけ出すまでの時間は、本当に苦しく出口のない迷路のようです。
2. ひらめきがもたらす歓び
ひとつのピースがハマった瞬間、堰を切ったようにイメージが溢れ出す。それまでの悩みが嘘のように可能性の扉が次々と開いていきます。
けれど、そんな苦しい思考の旅路を続けていると、ある日突然、運命のようなひらめきの瞬間が訪れます。
素材の意外な組み合わせや、過去の失敗の記憶、あるいは何気ない日常の一コマから思考の視点がふっと切り替わり、今まで絡み合っていた課題が一気に解けほぐれる感覚です。バラバラだったピースが完璧に組み合わさり、ひとつの明確な形として見えてくるこの瞬間の高揚感は、言葉では表現しきれないほどのものがあります。
そして面白いことに、ひとつの良いアイデアやコアになる軸が見つかると、まるで堰を切ったかのように次から次へと新しい発想が溢れ出してきます。
あのお菓子にはこのスパイスを組み合わせてみよう、生地の焼き加減をこう変えればまったく違う食感のシリーズができるかもしれない、と自由にイメージが広がっていきます。それまで重く閉ざされていた可能性の扉が何個も同時に開き、手が追いつかないほど自由にアイデアが膨らんでいくこの時間こそが、商品開発における最大の醍醐味であり最高の楽しさです。
3. 苦しみも歓びもすべてをお菓子に込めて
商品開発の中で味わう葛藤やひらめきの歓びは、最終的にひとつのお菓子の持つ深みや物語となって結実します。
簡単に思いついたアイデアだけでは作れないような、説得力と理由のある美味しさ。苦しんで考え抜いたからこそ、自信を持ってお客さまへお届けできる一品が誕生するのです。
頭を抱えて悩み抜く時間も、可能性の広がりにはしゃぐような時間も、すべては私たちが目指すお店に並ぶお菓子たちを最高のものにするための大切な試行錯誤の一部です。
今年の冬の開業を迎えるその時、私たちのショーケースには、こうした苦しさと歓びの果てに生まれた自慢のお菓子たちがずらりと並ぶことになります。
川越・久保町の店舗で、溢れるアイデアと緻密な計算から生まれた形豊かな味わいをみなさまに楽しんでいただける日を、私たちも心から待ち望んでいます。
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