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雨の日の試作

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Journal of Términus

雨の日の試作

湿度の変化と、粉と熱のバランス

外でしとしとと雨が降り続く日、厨房の壁に掛けた小さな湿度計にいつも以上に目が留まります。

換気扇を回し始めると、濡れた外気が静かに室内へ引き込まれ、普段は五十パーセント前後で安定している部屋の湿度がゆっくり上がっていきます。

一般的には見過ごされてしまうような十数パーセントの数字の揺らぎですが、ミリ単位の精度を求める焼き菓子の世界においては、この室内の空気の変化が仕上がりを左右する大きな要因となります。

今年の冬の開業へ向けて日々試作を重ねる中で、雨の日は決して不都合な日ではありません。むしろ、私たちのレシピがどんな天候下でも崩れない強度を持っているかを確かめる、絶好の検証の日なのです。


1. 目に見えない水分 粉が吸い込む空気の差

小麦粉やアーモンドは、呼吸するように部屋の湿度を吸い込みます。晴れの日と全く同じ工程を繰り返すだけでは、理想の食感には届きません。

お菓子の骨格を形作る小麦粉やアーモンドプードルは、非常に高い吸湿性を持っています。たとえ密閉容器で保管していたとしても、作業台に出して計量し、ふるいにかけるわずかな時間の間に、粉たちは空気中の微細な水分を抱え込んでいきます。

もしも晴れの日と寸分違わぬ量の液体を加え、同じ回数だけ生地を練り上げてしまえば、ほんの少しだけ水分過多な生地が仕上がってしまいます。その目に見えないわずかな差が、私たちが理想とする口溶けを微妙に鈍らせてしまうのです。

だからこそ雨の日は、湿度計の示す数値と手元に伝わる生地の粘り気を見極め、混ぜ合わせる手つきや速度を微調整します。

感覚だけに頼るのではなく、なぜ今この手応えなのかという理由を論理的に解釈し、生地の保水量を完璧な状態へと整えていく作業が求められます。

2. 脱水の数秒を見極める―火入れと排気のコントロール

生地から水分を綺麗に押し出し、香ばしさを閉じ込めること。オーブンの排気をあやつる一瞬の判断が、焼き上がりの余韻を決めます。

生地の調整と同じくらいシビアなのが、オーブンの中での脱水プロセスです。

テルミニュスの焼き菓子が持つ力強い焼き色と、表面のカリッとした心地よい噛み応えは、生地に含まれた余分な水分が途中でしっかりと押し出されることで初めて生まれます。

しかし、湿度の高い日はオーブンから外へ抜け出る蒸気の逃げ道もどこか重たくなります。そのため、最後の数秒の焼き足しをより慎重に見極める必要があります。

表面だけが急激に色づいて中心に湿気が残ってしまわないよう、熱の通り道を計算しながらじっくりと脱水を進める。オーブンの小窓から生地の膨らみと色の変化を凝視するその数分間に、職人としての全ての集中力を注ぎ込んでいます。

3. どんな天気の日も、変わらぬ一品を届けるために

私たちが目指しているのは、その日の天候やコンディションを言い訳にしない、再現性を持ったお菓子です。

晴れやかな青空の日も、今日のように冷たい雨が降る日も、お店の扉を開けてくださったお客さまの手元には、まったくブレのない最高のお菓子をお届けしたいと考えています。

川越・久保町で店舗を構えるその日まで、こうした地道なデータの積み重ねと検証の手を止めることはありません。

雨の日の静かな厨房で磨き上げられた一品が、みなさまの特別なひとときに静かな感動をもたらす日を信じて、私たちは今日もひたむきに向き合っていきます。

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